人気ブログ「おさんぽベルリン」の久保田さんが1930年代のドイツの団地を紹介しています。建物のデザイン性やコンセプトの豊かさ、人が暮らすことを考えられた昔の団地には情緒を感じます。温故知新に触れ、語り手の久保田さんのワクワク感が伝わってくる記事をぜひご覧ください!
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ベルリン北西部のHaselhorst(ハーゼルホルスト)にある団地
こんにちは。ライターの久保田由希です。
ベルリンに住みはじめてから、私は「たてもの」を観るのが本当に好きなんだなぁ、ということに気がつきました。建築の専門家が話題にするような現代建築家の作品が興味対象ではないので、「建築」ではなく敢えて「たてもの」と書いています。
私が特に好きなのは中世の市壁(市壁に付随する門と塔を含む)、19世紀後半〜20世紀初頭に(主にベルリンで)できたアルトバウと呼ばれるアパート、レンガ造りの工場、塔(灯台や給水塔など)、団地など。ベルリンだけでなくドイツ各地で写真を撮っています。楽しくて、楽しくてたまりません。
ベルリンには、ユネスコ世界遺産に登録された団地が6ヵ所あります。
(詳しくは以前書いたこちらの記事をクリックしてご覧ください→団地ファンはベルリンへ、工業化と東ドイツ時代が生んだ名建築たち。)
世界遺産の団地以外にも、私がいいなと思う団地はたくさんあるんです。でも、全然知られていないんですよね。そこで、私が趣味で訪れた団地を、今後ちょっとずつ書きたいと思います。
今回ご紹介するのは、Haselhorst(ハーゼルホルスト)という場所にある団地。ベルリンの北西部、Spandau(シュパンダウ)区に位置しています。ここに、1930年から35年にかけて団地が建てられました。
緑色のバルコニーは、90年代に増築されたそうです
団地が建設された当時、ベルリンでは深刻な住宅不足に陥っていました。工業化が進み、各地から労働者がやって来たからです。19世紀後半から20世紀初頭に建てられた集合住宅(現在「アルトバウ」と呼ばれているタイプの集合住宅)では足らず、一つのベッドを昼夜勤の労働者がそれぞれの睡眠時間に合わせて借りるという「ベッド貸し」もあったそうです。
そこで、快適で低所得者でも払える家賃の団地が、1920年頃から続々と誕生したのでした。これらの団地は、20世紀初頭に造られた集合住宅よりも、日当たりと風通し、合理的な間取りや周囲の自然環境を重視して設計されています。Haselhorstの団地も、そうした団地の一つです。
この団地は敷地約45ヘクタール(東京ドーム約9.6個分)。1935年当時で全3448戸、約1万2000人が住んでいたそうです。広い敷地内は6つのブロックに分かれていて、外観や間取りが少しずつ違います。建築家が違うのです。建物の間に緑地帯や公園があることは、どのブロックも共通しています。
少しずつ違うのが、見ていて楽しい
私はとにかく気の向くままにブラブラと歩いて、気になったところをカメラに収めています。あぁ、なんて楽しいんでしょう。
子どもが遊ぶ傍らで、眼光鋭い鷲が……
おっと、公園がありました。滑り台などの遊具に混じって、鷲の彫刻があります。鷲に見守られながら遊ぶのは、なんだか落ち着かない気もします。いったいなんでこんな彫刻が……と思ったら、そこには歴史的背景があったんです。
この団地が完成したのは1935年。そのときドイツで何が起きていたかといえば……前年の34年にヒトラーが全権を掌握、独裁国家が始まったときでした。団地の建設途中でナチスが権力を持ったために、それまで携わっていたユダヤ系の建築家たちは、ドイツから亡命せざるを得ませんでした。
この公園があるブロックは35年に落成しました。このとき国民の感情を高揚させるモチーフとして、鷲の彫刻が置かれたのだそうです。ちなみに、鷲そのものは現ドイツのシンボルとしても使われており、ネガティブな意味はありません。でも子どもの遊び場に鷲がいるのは、やっぱりどこか違和感を覚えます。私はどうもナチス時代の建築が、生理的に好きになれません。
私は、このそら色の窓枠がだいすき
Haselhorstの団地は築80年以上。日本の感覚ではボロボロ、というか取り壊されてしまう古さだと思います。ですが、写真を見ていただくと、とってもきれいですよね? じつはちゃんと改修されているんです。
この団地は歴史的建造物のため、文化財として保護されています(デンクマールシュッツと言います)。改修の際は、デンクマールシュッツ物件として、昔の面影を壊さないように改修工事が行われました。
当たり前ですが、建設当時と現在では室内の設備も変わります。石炭ストーブからセントラルヒーティングへ、大きな窯から電化製品の並ぶキッチンへと、時代と共に進化させています。昔の建物だからといって、不便なままムリをして住んでいるわけではないのです。
でも、約80年前の室内がどんなふうだったか見てみたくありませんか? じつは見られる場所があるんです。
それは月1回限定公開の「ハーゼルホーストのミュージアムアパート」(Die Museumswohnung in Haselhorst)。団地の一室に1930年代当時のインテリアを再現しています。公開日には、入り口に看板が出ています。
この看板が目印です
ミュージアムがあるのは、日本式2階の右側。玄関のベルを押すと、係員さんが開けてくれます。2部屋にキッチンとバスルームという間取りで、どの部屋もとってもレトロでかわいいんです。その様子は以前ヤフー不動産おうちマガジン連載「80年前のベルリンの団地に見る、コンパクトな住まいのインテリア」で書いたので、ぜひそちらをご覧ください(青字部分をクリックしてください)。
ミュージアムでは、Haselhorstの団地の本も販売しています(19.95ユーロ)。こういう資料は現地でないと入手が難しいので、私は思わず買っちゃいました。ちなみに、本と一緒にプレゼントしてくれたエコバッグにプリントされているGewobagというのは、団地の管理会社の名称です。
ミュージアムで販売している本を買ったら、エコバッグをプレゼントしてくれました
1階(階段を半階分上がった左側)にはカフェもあるんです。ケーキとお茶でひと休みするにはぴったり。もしかしたら、カフェで昔の様子を聞けるかもしれませんよ。
左手、扉が開いている場所がカフェ。ミュージアム公開日のみ営業です
ケーキはおいしかったです。コーヒーはお代わりをくれました
「ハーゼルホーストのミュージアムアパート」公開日は以下の通りです(2019年8月以降)。
2019年8月25日(日)14:30-16:30
2019年9月29日(日)14:30-16:30
2019年10月27日(日)14:30-16:30
2019年11月24日(日)14:30-16:30
でも公開以外の日も、団地は変わらずにずっとそこに存在しています。
Reichsforschungssiedlung(Haselhorstの団地)ライヒスフォーシュングスジードルング
住所 Haselhorster Damm / Burscheider Weg / Lüdenscheider Weg の一帯 13599 Berlin
URL https://www.gewobag.de/soziales-engagement/stadtteilinfos/spandau/haselhorst/
https://www.visitberlin.de/en/reichsforschungssiedlung-haselhorst (英語)
「ハーゼルホーストのミュージアムアパート」 Die Museumswohnung in Haselhorst
住所 Burscheider Weg 21, 13599 Berlin
URL https://www.gewobag.de/soziales-engagement/stadtteilinfos/spandau/haselhorst/museumswohnung/
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投稿1930年代の団地に会いにHaselhorst(ハーゼルホルスト)へは三井住友海上 海外旅行保険の最初に登場しました。