『冬のサマーハウス(その1)』ドロッペさんのハーデソーブラー
2016年01月14日 category:北欧コラム
こんにちは。ティンドラ・ドロッペです。今回はサマーハウスのお話です。雪深い冬にサマーハウスで過ごした数日間を2回に渡ってお伝えします。
サマーハウスを所有している北欧の人たちは少なくありません。私のデンマークの友人、カーンとロバートもスウェーデンにサマーハウスを持っています。一般的には夏の休暇で使うことが多いのですが、週末、気分転換しにサマーハウスに訪れることもあります。日本に於ける別荘を持つステータス感覚とはちょっと違います。避暑が目的でサマーハウスと呼んでいるわけではなく、私の友人によるとぴったりの英語がないからとのこと。彼らは自分達のサマーハウスのことを『FRITIOS HUS(フリッチスフース)』=“時を過ごす家”と呼んでいます。
電気も水道もガスもないと聞いていたので、北欧の真冬に大丈夫なのか?どうやって過ごすのか?半信半疑でした。
コペンハーゲンを早朝発ち、延々と続く針葉樹の中をドライブして7時間。うとうといねむりしていると「着いたわよ!ここよ。」とカーンの弾んだ声で目を覚ましました。
そこに姿を現したのは、たっぷりと雪をまとった針葉樹の濃い緑とこの土地特有の赤い家。
これがFRITIOS HUS=フリッチスフースです。
「わぁ~!!」と、素敵すぎて言葉がでてきません。深い森に迷い込んだおとぎ話の主人公になったような気持ちです。
車からゆっくり足を降ろし、新雪の中に足を踏み入れます。「ムギュ、ムギュ」九州生まれの私は、ふくらはぎ辺りまで積もったパウダースノーの感触も初めてです。こんな真冬でも小鳥はさえずり、澄んだ声が空に響きます。
新しい体験を楽しむ私をよそに、カーンもロバートも急いで車から荷物を降ろし、ひと息つくこともなく働き始めました。長時間ドライブだったのに?お昼ごはんも食べなかったのに?コーヒーも飲まないの?心の中でそう思った瞬間、「早くしないと日が暮れてしまうのよ!!」そう言われて、はっとするのでした。
私たちが到着した頃にはもううっすらと暗く、夜が近づいてきていました。暗くなってしまう前にここで過ごす準備を終わらせなければなりません。
ロバートはすぐに蒔き割りを。カーンはキャンドルに明かりを灯し、各部屋へ。
そうか、火がなければ始まらない。私も日常からモードを切り替えないと!
「何したらいい?手伝う!」
「裏の井戸で水を汲んできて!」
「OK!」
OK!と言ったけど、井戸で水汲みなどしたことない、大丈夫かな?いやいやそんな甘えたことを言っていては、凍え死んでしまう!
つるべ式の垂直井戸。ウールの手袋の繊維がチェーンに凍り付いて、うまく引っ張れず何度も水をかぶってしまいました。
この土地の水は鉄分が多く、紅茶のような色をしています。飲料水はデンマークから持参し、井戸水は洗面や食器洗いに使います。
夏に集めた薪 | 急いで薪割りをするロバート |
一番に灯したキャンドル | キッチンのオーブンにも火を入れます |
スウェーデン式タイルヒーター 150~200年前のもの |
お手製水用タンク |
暖まるまでには時間がかかりますが、ストーブに火が入りようやく人心地つくことができました。
このスウェーデン式のタイルヒーターは少ない燃料で、長時間一定温度の熱を放射するストーブです。縦型のオンドルとでも言いましょうか。
床から天井までずどーんと長い円柱形はスウェーデン独特のものだそう。150年~200年前のもので、現在でもメンテナンスをしてくれる会社もあります。表面のタイルは、長くは触れられないけど、外から帰ると寄りかかることができるくらいの温度です。
この日のランチ兼夕食は、生ハム、白カビチーズ、インゲン豆のペースト、スモークサーモン、ビーツです。
全部冷たいものばかり!?とお気づきの方もいらっしゃるでしょうか?
今日に限らず、そもそも北欧諸国の伝統的な食べ物は冷たいものがほとんどです。
今では豊かな国々ですが、昔は貧しく、薪は貴重なエネルギー資源でした。日本人の感覚だと、寒い日は鍋料理で温まったり、熱いお風呂に入って心身ともに安らぎを感じますね。しかし、寒くて暗い冬が長く続く北欧では、その昔、部屋を暖めるのがやっとだったのです。温かい料理やバスタブで体を温めることはできません。夏の間は、保存食をつくり長い冬に備えます。酢漬け、塩漬け、燻製などが伝統料理となっていくわけです。
フリッチスフースでの一食目を食べ、北欧の伝統食は冷たいものが多いということが腑に落ちるのでした。
ちなみに「明日は、温かいものを食べましょう!」と言って、2日目の夜はラムを薪のオーブンでローストしたものをいただきました。
あっという間に日は落ち、フリッチスフースはすっかり闇に包まれました。
娯楽のない夜は大いに語らい、私たちはよりお互いを知り、理解しあうことができました。昔の家族団らんもきっとこんな感じで、信頼関係や絆を強くしていったことでしょう。こうして、長く暗く寒い冬をみんなで協力して乗り越えてきたということが、現在の福祉大国形成の礎になったと、身を持って感じる滞在となりました。
次号「冬のサマーハウスその2」につづく